CAE懇話会 前理事長 平野 徹

“理事長退任にあたって“
ダイキン工業株式会社     
平野 徹   
 このたびNPO法人CAE懇話会の理事長を退任するにあたり、今までのCAE懇話会での私自身の活動を振り返り、さらに最近のデジタル技術、特に生成AIの発展と今後のCAE懇話会の新たな役割などについて思いを述べたい。
CAE懇話会の歴史を振り返ると、まず関西の企業を中心にCAEを推進しているキーマンが集まり2000年2月に第1回の関西CAE懇話会が開催され、翌年11月に第7回を開催し参加者も急増、CAE技術に寄せる社会の期待が高まっているとの認識で特定非営利活動法人(NPO)CAE懇話会が設立され、当時東レ所属の田中豊喜氏が初代理事長に就任された。その後、中部、関東、東北、北陸、中四国と全国各地に懇話会が設立され、それぞれ独立にゆるく連携しながら活動を継続してきた。
 私は2009年7月から第2代理事長として就任、10月に「次世代スパコンの企業での活用」と題し「京スパコン」建設現場見学と併せて関西CAE懇話会を開催、その後CAEの新しい波としてオープンCAE、「京」及びFOCUSスパコンの利用等を取り上げた。さらに、機械学会・計算力学部門との協同活動として、2012年10月に神戸にて開催されたCMD2012の実行委員長も務め、加えて、学術会議・計算力学シンポジウムにも毎年協賛し若手研究者を推薦してきた。
 その間、私自身の業務として当社の急拡大するグローバル生産拠点への設計・生産システム展開を進めるために欧州、中国、東南アジア、米国等の拠点を訪問する機会が増え、特に欧州やインドでのSAPを中心としたグローバル・システム展開に刺激を受け、ドイツ発のIndustry 4.0が提唱するCyber Physical Systemに注目し、日本の製造業におけるCAEをより広いプロセスに拡大しシステム化する必要があると考え、2016年5月に関西CAE懇話会「インダストリー4.0とCAE」を開催した。
 さらに、Googleのデータセンターにおける深層学習を用いたエネルギ・マネジメントに触発され、演繹的手法であるCAEと帰納的手法のAI深層学習の融合を目指すべきと考え、2016年10月開催の関西CAE懇話会で初めて「ディープラーニングとCAE」と題して開催、CAEとAI、特に深層学習の融合に関して講演者を集め議論した。その後、2018年5月の第59回関西CAE懇話会では「ディープラーニングとCAE(第2回)」を開催、特にDeepMindの開発したAlphaGoを取り上げ、その後毎年「ディープラーニングとCAE」を連続開催してきた。昨年11月開催の第83回関西CAE懇話会「ディープラーニングとCAE(第7回)」では〜生成系AIの設計・生産プロセスへの活用を考える〜と題し、DeepMindが開発したAplphaFold2の衝撃を紹介した。さらに、本年11月に開催した第97回関西CAE懇話会「ディープラーニングとCAE(第8回)」では〜生成AIとCAEの融合による拡張デジタルツインを目指して〜と題して、AlphaFold2が化学分野のCAEと新しいディープラーニング・アルゴリズム(Transformer)の融合技術として医薬・製薬業界に大きな変革をもたらした特筆すべき例として紹介、併せてノーベル化学賞受賞を祝った。さらに、本年のノーベル物理学賞も深層学習関連でHintonらが受賞され、今後の数理科学・工学・CAE分野において、いよいよディープラーニングとCAEの融合が進むものと期待している。
 現在私は、自社内AI/IoT人材育成のためのダイキン情報技術大学(DICT)においてPBLアドバイザーとして、様々な機器・コンポーネントに関する設計・解析・生産やデータ取得・分析、さらには組込み系やクラウド・ソフト開発等の教育・実践に取組む新人・若手社員に接する機会も多く、彼らがデータドリブンな帰納的手法であるAI深層学習をベースとしながら、既存社員のドメイン知識の習得と整理・課題設定やCAEを含む演繹的手法との融合に違和感なく取り組んでいる様子に大変期待をしている。
 そこで、今後のCAE懇話会が目指すべき新たなCAEエンジニア像として、ドメインごとのCAE技術に加え、データドリブンなAI深層学習を学びこれらを融合した技術を身に着け、新たな製品開発やプロセス革新、ソリューション開発に貢献できる技術者を考えている。今後のCAE懇話会の活動を通じて日本のCAE技術者を両利きの技術者として育てることで、日本の製造業の革新を担うエンジニアの育成に寄与することに期待したい。
 



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